四将新報

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【自戦記】第7期四将マスターズ決勝#1─決勝の舞台にて─

 こんにちは!四将新報編集部です。先日行われた四将マスターズ決勝戦。どの対局も白熱した勝負でしたね。決勝戦には管理人である私、やきそばも出場しておりました。今回は決勝戦の体験記をここに綴っていきたいと思います!

※本稿は管理人のnoteにも同時投稿致します。

 

 岸亜雷帝・天GAMI初段との死闘の末、最終局で全員撃破の条件をクリアし予選通過を果たしたのが4月15日のこと。これを執筆し始めた時点で半月近くが経過しようとしている。思えば対局終了後は舞い上がっていたが、決勝進出者による連絡が立ち上げられた頃にはスッと落ち着いていたような気がする。半分実感が湧かないまま対局日時の調整が進められた。

 

 

対局に臨むあたって

予想

 予選C卓の様子を観戦する。あるきびと四段が安定した強さを持っていることは知っていたが、実際に勝ち上がったのは中田初段だった。そこには2度に及ぶパラレルに疲弊しながらも、執念で敵を詰ます彼の姿があった。解説の中司会長も驚嘆とある種の呆れを交えながら撃破劇を見守っていた。私も指し手に籠った思いの丈という物を、無機質な画面から感じていた。

 

 改めて決勝の対局相手を見る。中司晃貴帝王・天帝、岸亜双雷帝、中田正康初段の三名。これは相当厳しい戦いだと思った。自惚れた言い方を敢えて選ぶとすれば、私は「マーク」されるだろうとも思った。何せ大会初参加、外部からの人間が、タイトルホルダーを交えた対局で1位通過である。何かしらの警戒はされて当然だろう。この間にnoteの拡張版として四将新報というブログを立ち上げた。新たな記事を書くうちに確かに四人将棋に対する理解は深まった。だがそれはトップ層の実力を理解することでもあった。

 

 皇帝戦十二番勝負をご存知だろうか。話が逸れに逸れて申し訳ない。私は当時(現在も)このタイトル戦の棋譜を並べ、ポイントを文章にまとめるということをやっていた。決勝に勝つためではなく単純な好奇心で調べていたのだが、やはり対局のレベルは高かった。予選の私は多くの接戦を落とし、それでも最終局に勝利した。しかし岸亜雷帝は皇帝位奪還とはならずとも、不思議な指し回しで三度トップに立っている。中司帝王・天帝は言うまでもないだろう。彼は私が調べたその戦いの勝者なのだから。

 

 加えて中田初段。彼の意地は予選を通じて理解した。彼はきっと戦い方や立場、棋士としての在り方にこだわりを持つ人なのだろうと思った。もしこれが間違いだったしても、私にとっての中田正康とはそういう人間だった。 中田初段は中司会長や私が上家に座ればきっと狙ってくるだろう。中司会長は連覇の為に私を他と平等に扱い、そして平等に倒してくる。岸亜雷帝は予選の”借り”を取り立てにやってくるに違いない。これが「マーク」されると奢った言い方する根拠である。

 

構想

 やがて対局が近づき、第1局から第3局までの席順が明らかになる。第1・2局は上家(左側)に岸亜雷帝で、上家(右側)に中司・中田の両者が交互に入る。私はこれを見て胸をなでおろした。中司・中田に挟まれるという事が無くなったからだ。もちろん岸亜雷帝に追撃を食らうのは怖かったが、意図的に挟撃形を狙うイメージはなかった。第3局は下家(右側)に中司帝王・天帝で、中田初段が上家(左側)。これが嫌な席順の1つだったが、それでも左右逆じゃないだけマシだ。ここまでが席順を見た第一感。


 次に中田初段の自戦記を読みながらもう少し具体的に考える。第1局は、中田さんは確実に中司帝王・天帝を狙うのではないかと思った。撃破が続いて攻めに対して躍起になっているだろうというのが推測だ。手の流れに乗って中司帝王・天帝を撃破して2位狙いだ。中田・岸亜のどちらかが弱ったところを潰す。もう一方は恐らく戦力差が生まれて倒せない。だが中司帝王・天帝をトップにさせないことが第1局の使命だと感じた。


 第2局はどうだろうか。ここも中田初段の立ち回り次第だと思った。抜刀銀を採用すれば迎え撃つ必要があるが、仮にスタンダードに中司帝王・天帝を攻撃すれば挟撃形に持ち込める。2局とも岸亜雷帝の具体的な攻撃を警戒していなかったが、彼の地下鉄飛車模様/浮き飛車を併用するような駒組みには時間がかかるだろうと踏んでいた。何せまともに戦えば誰にだって勝てない。ならば相手の手に乗って勝ちを見繕わねばならない。その点において考え方のはっきりしている中田初段が、唯一の道標になったと言える。


 第3局までは詳しく考えられなかった。そこまでのポイントによって変わる部分が大きいからだ。棋風だけで言えば中司─中田による挟撃を岸亜雷帝が凌ぐ勝負になると思った。ならばその時点でポイントの高い方を沈めるように立ち回るべきだろうというのが作戦だ。曖昧模糊だが研究らしい研究をする実力も自分には無いのだ。これで良い。

開幕ー第1局─

 対局は平日の夜、20時半から3局の予定だった。将棋にしても四人将棋にしても、こういう真剣勝負の場というのは心身の疲労が伴うものである。コンディションを整える時間と言えば夕食後のわずかな時間だけだが、それでも自分なりのルーティンを作って対局に臨む。

 

 岸亜雷帝の先手番で対局はスタート。手番は一番最後になったが、そんなことを気にかける余裕はなかった。序盤早々から中田初段が飛車を中司陣めがけて展開。中田初段が対CPU用に研究した「急戦振り飛車」をここでも投入したようだ。政略派・上家攻めを自称する中田初段が、孤軍派筆頭の中司四将マスターズに攻撃を仕掛けるのは当然。大師匠のタイトルが奪われたことへの恨みもあったことだろう。そうなれば作戦通り挟撃に持ち込みたい。しかし、私と中司陣の間には空間ができており、駒を直撃させる足掛かりが存在しない。やっとの思いで飛車を転回したのが第1図。ここまでに40手も掛かってしまった。

 

第1図

 

 持ち駒が無いので有効手は少ないが、←3二金や←3二銀、←3一銀のような手で絡んでいこうというのが狙い。対面の中田初段が暴れれば暴れるほど攻めは決めやすくなるだろうと思っていたが、頑強な抵抗の前に若干息切れ気味である。

 

 この形を組むのに時間がかかったとはいえ、反撃が中田初段に刺さるようでは意味がなくなってしまう。岸亜雷帝も中田玉に厳しく迫ろうとしており、攻めの間合いが非常に難しい序盤戦だった。中盤に入っても中司四将マスターズに対する決定打はなく、それどころか中田初段への反撃が強くなっていった。間合いを見切った読みの一例が第2図である。

 

 

第2図

 

 図の直前に→8二銀と中田初段が飛車取りをかけている。これを無視して玉を立ったわけだが、私から←4一玉が指しづらくなっているのがわかるだろうか?

 

 玉は元々5一に居たため、飛車の横効きがこの瞬間発生したのである。このまま銀を取っても↓同飛←同飛と清算しては拠点を失ってしまう。仕方なく←2七金と指し、中田初段の飛車取りからの再攻撃に期待をかける。

 

攻略

 それから暫くして、岸亜雷帝にエラーが発生してしまった。パラレルではなく、再開不能ということで規定に則り中田初段の撃破扱いとなる。もどかしいが対局にルールが存在する以上は仕方ない。中司四将マスターズを確実に倒せるよう、細心の注意を払いつつチャンスを待つ。

 

 

第3図

 

 78手目まで進んで最大のチャンスを迎えた。←5一飛が習いあるマジックの手筋で、次に←9一飛成と中田初段の飛車を取ることができる。中司四将マスターズを倒すのは大事だが、ここまで来ればトップを狙うべきだ。中田初段の陣形は壁形だから、うまく飛車の機動力を活かしたい。


 ←5一飛に中司四将マスターズは当然←4二飛。←4一金~2四金と追い詰められるだけ追い詰めてから←9一飛成を決行。持ち駒のない中田初段はこうすれば中司玉に王手をかけられない。ここで勝ちを意識し始めた。

 

 

意表

 

第4図

 念願かなって←9一飛成。対して中田初段は→6三銀。ここで第4図の↓9二銀が予想外の一手だった。マジックで詰ましますよという一手だ。たしかに現状は中田初段を先に倒すべき局面。だが中司四将マスターズに撃破点まで取られるわけにはいかない。だが持ち駒が飛車歩では中司玉は寄らない。どう考えても撃破が間に合ってしまう。

 龍の効きを通す←5二金に→9二金は当然の一手。対して中司四将マスターズはじっと↓6九銀成。←9二竜と王手するよりほかなしと判断したが、→8四玉と逃げて手番は中司四将マスターズ。↓8三金で詰みである。

 

 これが第一人者の粘りかとも思ったし、回収した金駒が中田初段に向いたことにホッとしたのも事実だ。幸い中司玉は完全に包囲され、抵抗の余地はない。次に王手をかけた手を見て、中司四将マスターズは投了した。頭の中に描いていた二者撃破とはならなかったが、それでも第1局を制することができたのは僥倖というより他ない。

 

休止

 第2局は連続して行われる。今の勢いに乗ればもう1度中田初段と連携して指すことができるのではないかと自信を持っていた。正確には連携というよりも、中田初段の作る勢いに乗じるといった方が正しいかもしれないが。ともかく、その矛先が私に向く展開だけは避けなければならない。

 

 だが対局は行われなかった。中田初段の方にトラブルが発生し棄権の申し出があったのである。対局日程を再調整し、第2局以降は後日改めて行うことになった。大事な勝負をトラブルで終えてしまうのは惜しいと思うし、きっと他の対局者もそう感じての事だろうと思った。四人の日程を調整するのは本来難しいことだが、昨今の事情もあり比較的調整は付きやすい。

 時間にも余裕があるということで、本来第4局・第5局を行う予定の日に残り4局を一気に消化する運びとなった。体力を使うことになるだろうから、きちんと調整せねばと思いつつ、第一日が終了した。(続く)