四将新報

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マジック!受けの妙手!虚空の銀!君は盤上の一手を見たか。【第9期皇帝戦勝手にダイジェスト#1】

 皆さんこんにちは。今回は勝手にダイジェストと題して、先日閉幕した第9期皇帝戦を振り返っていきたい。第9期皇帝戦十二番勝負は最終局の結果を以って中司晃貴帝王・天帝が皇帝を奪取。六冠復位を成し遂げた。現在の四人将棋界のトップを走る4名が争ったこのシリーズは、一局一局がまさに至極の展開!ここでは一局ごとに筆者が気になった局面を取り上げ、皇帝位を巡る戦いを振り返っていきたい。ダイナミックな四人将棋の世界を一緒に楽しむことができればと思う。

 

 

第1局 あるきびと雷帝が八面六臂の快進撃

 

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 十二番勝負は2月に開幕。挑戦者に名乗りを上げたのは中司晃貴帝王・天帝、岸亜双九段、あるきびと雷帝の3名。そして初防衛を目指す水嶋快斗皇帝(肩書はいずれも当時)というナインナップ。全員がタイトル獲得の経験者であり、四人将棋界の縮図とも言うべき対決だった。

 

 対局はあるきびと雷帝の先手(起家)でスタート。中司・あるきびとの2名が最新形の5九金左型天守閣玉を採用し激突。水嶋皇帝は天守閣玉から地下鉄飛車に構え、岸亜九段が飛車と玉を巧みにスイッチさせながら対抗。対局は1vs1の対決が並ぶ「番い戦」模様となった。

 

 

第1図

 

 本局は各プレイヤーの思惑が重なり複雑なせめぎ合いに。勝負が大きく動いたのが第1図。←2三玉の局面から↑3二銀のマジックが強烈な一手。連続して↑4一銀成と岸亜九段の金を取り、右辺で優位に立った。ただし岸亜九段から中司帝王・天帝へ攻める手順が無くなる分、中司帝王・天帝としてもまったく不満という訳ではない。それでも局面の主導権を握ったあるきびと雷帝が指しやすい展開になった。

 

 その後右辺の攻防に水嶋皇帝が一時乱入。中司帝王・天帝が金銀のスクラムも築くなど戦いは混迷を極めたが、終始攻めに徹したあるきびと雷帝が勝利。開幕局を制しトップに名を上げた。

 

第1局結果(ポイント制Bルール、十二番勝負)
1位:あるきびと雷帝5pt(総合1位)
2位:水嶋皇帝2pt(総合2位)
3位:中司帝王・天帝0pt(総合3位)
4位:岸亜双九段0pt(総合4位)

 

 

第2局 中司帝王・天帝、第一人者の受けの間合い

 

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 第2局は第1局と同日に連続して行われた。中司帝王・天帝があるきびと雷帝に仕掛けたのをきっかけに、中央で歩のぶつかり合いが発生。中司帝王・天帝は5五の天王山に飛車を構えてこれが双王手に。両王手ならぬ双王手、2人同時に王手をかけるのは四人将棋だからこそ見られる華々しい展開だ。

 

 前局トップのあるきびと雷帝に対しては水嶋皇帝も圧力をかけ、結果的には中司帝王・天帝がこれを撃破。しかしこれに並行して水嶋皇帝は対面の中司帝王・天帝陣に飛車を打ち込む。岸亜九段と共同で撃破を狙う、積極的で激しい攻めだ。その後も続く水嶋皇帝の攻勢に対し、中司天帝・帝王が不思議な受けを見せた。

 

 

第2図

 この局面で下家(右側)の手番。貴方ならどう指すだろうか?3四銀と受けるだろうか。1三玉や2四玉のような早逃げだろうか。それとも、攻めを見せて6三銀のような手もあるかもしれな。

 

 本譜は←3七銀である。←3七銀。これは一体どういうことなのか。金取りであるがタダの所に銀を投げ捨てる。しかしこれが実に味わい深い受けの一手である。これを岸亜・水嶋の両者が見逃すとしよう。あり得ないが2人がパスしてもう1手指せるとする。すると次に←4七銀のマジックがあり、飛車をボロッと取ることができる。よって岸亜九段はこれを無視できない。だが放置して水嶋皇帝が銀を取ってくれるとも限らない。何か対応が必要だ。


 そこで本譜は←3七銀に↑1五銀のマジックを決める。玉が逃げたところで↑2六銀として銀を取る。将来の飛車取りには対応できなくとも、水嶋皇帝にまで得をさせまいというわけだ。しかし←3七銀の効果で、水嶋皇帝はこの銀を取り返すことができない。←3七銀を打たずとも岸亜九段は↑1五銀のマジックを指すことはできる。だが↑2六銀まで見据えて誰にも得をさせないのが中司帝王・天帝の銀打ちである。


 中司帝王・天帝に伺ったところ、水嶋皇帝の攻めを逸らす狙いがあったとのこと。岸亜九段を攻めましょうというサインになっているそうだ。岸亜九段がこれを無視し、→3七龍と取られたとしても攻めが逸れて十分。←1三玉と逃げる構想だったという。もちろん、↑1五銀のマジックから銀を水嶋皇帝に取らせない所までが読み筋である。その後もしたたかな立ち回りを見せた中司帝王・天帝が全員撃破で第2局を制した。本局で一挙6得点である。

 

第2局結果(ポイント制Bルール、十二番勝負)
1位:中司帝王・天帝6pt(総合1位)+6pt
2位:岸亜双九段1pt(総合4位)+1pt
3位:水嶋皇帝2pt(総合3位)+0pt
4位:あるきびと雷帝5pt(総合2位)+0pt

第3局 「お願い」の裏に潜む戦略

 

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 3月に入って行われた第3局。この対局の直前に雷帝復位を果たした岸亜雷帝の起家で対局開始。久しぶりのタイトル獲得となった雷帝の勢いはとどまらず、早速下家の水嶋皇帝(都合により本局はCPU代指し)を軽快に撃破。そのままあるきびと三段(当時)との協力体制を築き、中司陣の攻略に取り掛かる。

 

 ここでなかなか倒れないのが中司帝王・天帝の底力。厳しいかと思われたが、あるきびと三段からの攻めを跳ね返し抵抗を続けると、反撃を見せつつ第3図の局面を迎える。

 

第3図

 図の↓7八銀は虚空に放たれたかのような単独の銀。しかし端玉を咎める非常に恐ろしい狙いが込められている。次の手番は起家の岸亜雷帝。つまりこの局面は↑8九金と打てば即詰みである。しかもあるきびと三段に受ける手立てはない。直前の→8五銀と銀を取った手に代えてなんらかの手段を講じる必要があったということだ。

 

 こういった特殊な詰み筋も四人将棋の醍醐味と言えるだろう。本将棋で敗勢側がかける詰めろや怪しい手を「最後のお願い」と呼ぶが、これも最後のとは呼ばずとも一種のお願いだろう。違いがあるとすれば、委ねる相手が第三者になっているという点か。

 

 しかし、本譜は↑7九歩と進行する。詰みを回避し銀取りに歩を打つ。あえて詰まさないことで銀打ちを悪手に変えてしまおう、という手である。しかも、あるきびと三段も銀にヒモがついてタダで取れなくなってしまった。詰みを見送る手に合理的な理由があるのが四人将棋の面白いところ。岸亜雷帝の戦略的な判断だと言えよう。

 

 こうしてあるきびと三段との協力体制を残した岸亜雷帝が再び手綱を握った。だが勝負は決して定常ではなく、二転三転するものである。本局を制したのはここで詰まされかけたあるきびと三段だった。岸亜雷帝は中司帝王・天帝の撃破にこそ成功するも、そこに金銀を多く投入することとなる。中司帝王・天帝の抵抗は激しく、入玉まで持ち込み万全の体制に見えた岸亜玉は気づけば守りが薄くなっていたのである。じっと機会を伺うように持ち駒を集め、端玉で耐え忍んだあるきびと三段が、最後にはふんだんに金銀を用いて二枚流の岸亜雷帝を寄せ切った。あるきびと三段への詰み筋に垣間見えた両者の戦略。その一手が大きな影響を与える一局だった。

 

第3局の結果(ポイント制Bルール、十二番勝負)
1位:あるきびと三段9pt(総合1位) +4pt
2位:岸亜双雷帝4pt(総合3位)+3pt
3位:中司帝王・天帝6pt(総合2位)+0pt
4位:水嶋皇帝2pt(総合4位)+0pt

 

 

 十二番勝負は序盤3局を終えて、あるきびと三段と中司帝王・天帝がリードする展開になった。どの対局も見どころたっぷりで、タイトル戦だからこそ見られる濃厚な戦いを振り返ることができた。とはいえ勝手にダイジェストはここまで3局と始まったばかり。あと9局、じっくりとお付き合い頂ければと思う。(続く)