四将新報

日本四人将棋連盟の棋戦情報・観戦記を中心に、四人将棋の情報をピックアップ!※管理人個人の趣味による更新のため、更新頻度には難があります。ごゆるりとお楽しみ下さい。

【自戦記】第7期四将マスターズ予選C卓#前編【中田正康初段】

 現在決勝戦が進行中の第7期四将マスターズ。今回は予選C卓を1位で突破し、決勝進出を果たした中田正康初段による自戦記を公開!撃破に次ぐ撃破、盤上を駆け巡った中田初段の執念の戦い。その全貌が中田初段によって明かされます。
(著:中田正康初段  編:四将新報編集部)

 第7期四将マスターズの模様は日本四人将棋連盟の公式Youtubeチャンネルで公開中です!

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本文中には指し手に関する話も登場するので、ぜひ動画とご一緒にご覧下さい。

 

未知の領域

 対局者は揚羽蝶初段と強豪あるきびと四段。

 意外かもしれないが、私は元タイトルホルダーのあるきびと四段より揚羽蝶初段を警戒している。彼は先日、C級順位戦にてデビューを飾った“期待の新星”。結果的に三位で終わったが、目立った悪手はなかった。無限の可能性を秘めている。B卓のように予想を覆すかもしれない。

 少し話は変わるが、私は「政略派棋士」として知られている。そのため過去の対局を見返し、作戦を練り、準備万端で試合にのぞんでいる。察しのいい読者はお気づきだろうが、揚羽蝶初段のような新人棋士は参考にするデータが少ない。今回の対局は未知の領域であり、不安に押しつぶされそうになりながら対局にのぞんだ

 

構想

 当日、私は「急戦振り飛車(仮)」を実戦投入しようと考えた。↑6七歩~↑9八飛といきなり飛車をぶつけるのだ。しかし今日まで研究を続けた結果、欠陥が見えてきた。正しい手順をふまれると受けきられてしまうことや、自玉が薄くなることなど、問題が山積みになった。B級奇襲戦法を実戦投入する、というのは無謀なチャレンジかもしれない。だが今回は「未知の領域」へ踏み込む。最後まで何が起こるかわからない。

 

棋帝戦の奇跡

 対局直前、私は第73期棋帝戦C卓予選を思い出した。

 タイトルホルダー水嶋快斗皇帝(当時)と中堅~強豪レベルのユコタ四段との対局であり、これが私のデビュー戦だった。だれもが水嶋氏のタイトル挑戦を予想していただろう。彼は当時から中司氏に一目置かれていた。熱心な四人将棋研究家であり、次々と新手を発表していた。今日まで多くの人々が愛用している天守閣玉や、抜刀銀は彼が発表したものだ。しかし蓋を開けてみれば私が二回連続一位に輝き、タイトル挑戦の切符を手にした。これを私は「棋帝戦の奇跡」と呼んだ。

 時は流れ、私は四人将棋界では中堅クラスの実力を持った。あるきびと四段はついこの前までタイトルホルダーだった。そして初々しい揚羽蝶初段が居る。それぞれの対局者のレベルはあの棋帝戦とほぼ同等なのだ。「棋帝戦の奇跡」の再来が来るかもしれない。私は目を閉じた。

 

〜一局目〜

序盤:孤軍派転向

 再三言うが、私は政略派だ。「政略派」という言葉を知らなかったときでも「上家攻め派」と私は名乗っていたし、「政略派」という概念の半分は私が確立したとついこの前まで勝手に思っていたぐらいだ。そんな私が初手から下家を攻めにいった。これに視聴者、読者は驚いたかもしれない。しかし相手はCPU、本将棋のAIの発展は目まぐるしいが、残念なことに四人将棋ではカモだ。なのでCPUが下家にいるとき、私は一時的に「孤軍派転向」をする。

 それに理由はもう一つある。揚羽蝶初段の手が自然と「対あるきびと四段」から「対CPU」に変わっていく。私は何局もCPUと対局しているからこそ、この展開は読めていた。そもそも政略派とは「対面と協力して上家を倒す」という構想が根底にある。対面が下家を殴るのであれば、上家を攻めるメリットはない。少なくとも私はそう考えている。

 

序中盤:CPU速攻の傷

 無事自らCPUにトドメを刺し、撃破点1pt獲得。
 しかし困ったことになった。ご覧の通り、極端に玉が薄い。このまま長期戦となれば不利だ。こういう時にこそ四人将棋の構想力が問われる。

 

中盤:要塞化計画

 一見平凡な玉寄り、しかしこの一手から要塞化を目指す。揚羽蝶初段の攻撃を金銀交換~マジックの応用で捌く。運のいいことにあるきびと四段が揚羽蝶初段を追い詰めていたので、漁夫の利を頂く。これで撃破点は2pt。揚羽蝶初段の亡骸を回収すると、計画は第二段階に移行する。一直線に玉が走っていく。

 

中終盤:事実上の入玉

 自玉が壁に張り付いた。この形は見た目以上になかなか寄せづらい。事実上の入玉だ。ピンと来ない方は先日のC級順位戦の最終盤を参考にしてくれ給え。

 

終盤:籠城

 四人将棋において、最後の二人の戦いを「一騎打ち」と呼ぶ。私はなんやかんや粘って一騎打ちに持ち込むが、毎回敗れ去る。通算成績を見てみても通算二位獲得数11回に対し、一位はわずか2回と数字にも現れている。一騎打ちは本将棋の棋力が物を言うが、私の実力はウォーズ一級~初段程度であり、強豪棋士と立ち向かうには弱すぎる。果敢に攻めるも、攻めが繋がらない。必死に中終盤で築き上げた要塞で籠城するも、ジリジリと戦力を削がれていき、潔く降伏した。

 

~二局目~

前哨戦:第一次パラレルワールド

 ここで私の秘策「急戦振り飛車」が炸裂!CPUを撃破し、玉を左に左に寄せていく。これは第73期棋帝戦の自分を極限にまで研究し、導き出したこたえである。一局目の「要塞」とは比べ物にならない堅さ、「空中要塞」の自然建設が完了した。揚羽蝶初段と共にジワジワあるきびと四段を挟撃。これぞ「政略派」という立ち回りである。ここであるきびと四段が時間切れ!この後は空中要塞の堅さと、手持ちの駒でゴリ押す…………はずだった。

 なんとSDINゲームに不具合が発生しこの対局は幻となってしまった。この不具合が起きている真っ最中に、あるきびと四段が「ここはパラレルワールドですか?」とSDINのチャットに書き込んだので、この不具合を「パラレルワールド」と私たち対局者、運営は呼んだ。

 

休憩中:静かな闘志

 「パラレルワールド事件」への対応を運営部が話し合った結果、指し直し局が行われることとなった。私は正直憤りを感じていた。CPU撃破点1ptの消失だけではない、強敵あるきびと四段が一局戦と同じく連勝する可能性が浮上したからだ。我々政略派は順位点をとることは比較的容易だが、撃破点は取れにくい。だからこのたった撃破点1ptでも私は喉から手が出るほど欲しかった。

 しかしこの「憤り」が私を覚醒させた。対局前の不安な気持はこの「憤り」によって消し去り、「憤り」は「闘志」へと徐々に姿を変えた。私は政略派棋士、静かに戦場を見つめる軍師のように冷静でなければいけない。ポーカーフェイスで隠れているが、心の底には燃えたぎる闘志があった。(後編へ続く)