四将新報

日本四人将棋連盟の棋戦情報・観戦記を中心に、四人将棋の情報をピックアップ!※管理人個人の趣味による更新のため、更新頻度には難があります。ごゆるりとお楽しみ下さい。

【観戦記】第72期順位戦C級第1局 ─三人攻撃の狭間にて─

第72期順位戦C級第1局

 ついに開幕した第72期順位戦。日本四人将棋連盟の所属棋士が頂点を目指して勝負に挑む。今回はその対局の模様を文章でお届けしたい。注目の対局にはりゅう三段、中田正康初段、揚羽蝶初段、天GAMI初段が登場!詳しい対局内容は日本四人将棋連盟が投稿している動画にて視聴可能なので、是非そちらと併せてお読みいただければと思う。

※こちらは、筆者(管理人)がnoteに投稿したものを一部再編集したものです。

  

 

対局者
↑りゅう三段 →中田正康初段 ↓揚羽蝶初段 ←天GAMI初段(各0pt)
対局日:2020年4月13日(月)
初手からの指し手
↑4七歩 →7四歩 ↓6三歩 ←3六歩
↑6七歩 →7六歩 ↓4三歩 ←3四歩
↑5六歩 →6五歩 ↓5四歩 ←4五歩
↑4八玉 →8六銀 ↓3二銀 ←2二銀
↑3八金 →8四玉 ↓6二玉 ←2六玉
↑5七玉 →7五玉 ↓7二銀 ←3五玉
↑5九金 →8二銀 ↓8一銀 ←3二銀(第1図)

 

 さて、本局は順位戦C級第1局。C級は所属棋士により争われ、1人4局ずつ指しポイント上位2名がB級に昇級する。四人将棋は将棋と異なり、単純な勝敗だけでなく生き残った順位や、誰が誰を詰ませたか(撃破という)といった要素が存在する。そのためJYSLではポイント制のルールを制定しており、順位戦では「Aルール」が採用されている。
 
Aルール…各対局の1位に2pt、2位に1pt、3位に0pt、4位に-1ptとし、
他家を詰ました棋士には撃破点1ptを付与する。4位回避と撃破数が重要。

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 りゅう三段の先手番(起家)で対局開始。前期の新人王戦でも優勝した実力者で、JYSLの副会長も務めている。各家は3歩を突き、玉を上段に構える天守閣玉模様で駒組みを進めていく。初めてご覧になる方には衝撃的かもしれないが、盤の外側で攻防の起こりやすい四人将棋では5七(起家視点)に玉を構えた形が安定しやすい。玉のコビンががら空きだが、歩が向かい合うため拮抗することが多いのである。もちろん金銀の打ち込みには注意しなければならない。
 上家の中田初段、下家の天GAMI初段がそれぞれ揚羽蝶初段の銀を攻めて戦端が開かれた。1ターンで2枚同時に駒を取り返すことはできないため、↓8一銀と引いたところで←3二銀(第1図)。銀交換だが、中田初段から銀引きの継続手がある恰好となった。

 

第1図からの指し手(太字は手番が移動する王手)
↑2八銀 →9三銀 ↓3二飛 ←2八銀
↑2八同金→8一飛 ↓7二銀 ←2二銀 
↑4六歩(第2図)→8五飛 ↓5二飛 ←4六歩
↑3八飛              ←2四玉
↑3六銀 →6六歩 ↓2二飛 ←2三歩(第3図)

 

上右辺の攻防

 中田正康初段は上家(自分の左側を指す)への攻めを主体に組み立てるスタイルが特徴。第73期棋帝戦ではタイトル挑戦も経験している。本局でも戦局の流れを掴み、天GAMI初段の攻めに乗じて→8一飛として揚羽蝶初段からうまく銀を召し取った。一歩リードを奪った形か。天GAMI初段も←2二銀と飛車を攻め立てるが、↑4六歩(第2図)によって戦いがさらに動き出す。

 

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 りゅう三段が歩を突きだした形だが、これが下家への攻めの第一歩。中田・揚羽の両者が飛車を引き払い、天GAMI初段が←同歩と応じたところで↑3八飛が狙いの飛車寄り。すかさず←2四玉と引いたがここで揚羽蝶初段が機敏な反応を見せる。飛車の効きが寸断されたことで2二の銀が浮いたのだ。↓2二飛←2三歩まで進んで第3図。挟撃に苦しむ揚羽蝶初段だが、銀損を取り返してなんとか持ち返した格好となった。天GAMI初段にとっても順位戦は昇段をかけた正念場。積極的に動く将棋を見せていたが、ここで一度守勢に移ることになった。

 

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交錯する戦場に”事件”

 

第3図からの指し手(太字は手番が移動する王手)
↑4八金 →5六歩 ↓5二飛 ←2七銀
↑2五銀            ←同金右
↑3九飛 →7七歩 ↓5五歩 ←5六歩
↑6八銀 →7八銀 ↓5六歩
↑5八玉 →6七歩 ↓5七歩成
↑同銀  →同歩  ↓5六銀 (第4図)
 
 揚羽蝶初段は本局が連盟入り後初対局だそうだ。挟撃をなんとか耐えながら↓5二飛と中央に飛車を戻す。右辺ではりゅう三段が天GAMI初段へ攻撃を続けるが、ここで揚羽蝶初段は↓5五歩から↓5六歩、↓5七歩成、と一気に歩を進出。中田初段と共にりゅう陣へ攻勢をかけていった。りゅう三段は受けに出るが攻撃は激しく防戦一方に、↓5六銀と銀打ちでさらなる攻撃に出たところで、事件は起きる。
 

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第4図からの指し手(太字は手番が移動する王手)
←3八歩          ↑同金右 →7六銀
↑4九玉 →6九歩 ↓6七銀成←3八金
↑同飛  →5九銀 ↑3九玉 →4八銀
↑同飛  →8二飛 ↓8一銀打←2七銀
↑1一飛 →7二銀 ↓同銀  ←1五金引
↑2八銀 →5九銀 ↓3二銀 ←2八銀
↑3八銀 →4八銀 ↑同玉  →6八飛
↑3七玉 →6七飛 ↓2二歩 ←2六金
↑4六玉 →6六飛 ↑5六歩 →5五飛 (第5図)

 

 前掲図から天GAMI初段が←3八歩と打った。この手によって対局の運命に変化がもたらされることとなる。りゅう陣に働きかけて味の良い歩だが、これが所謂「三人攻撃」の一手となり天GAMI初段の反則となってしまった。3vs1の状況を回避するために存在する三人攻撃の規定だが、今回は→7六の銀と↓5六の銀がりゅう三段への攻撃とみなされる状況のため、三人目の攻撃として適用となった。反則手後も対局は続行されるが、持ち点2ptが天GAMI初段からりゅう三段に譲渡された。
 しかし、この歩は反則としてだけではなく、金取りとしてだけでもなく、本局の流れを大きく変える一手になったのである。
 戦いは続く。りゅう三段に対する猛攻は止まらない。中田初段は→6九歩で拠点を作り、銀打ちから攻勢を続ける。天GAMI初段もここに来て手を緩める訳にはいかない。←1八銀の詰めろから追撃を続け、第5図に至っては万事休すかと思われた。

 

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翻転

 
第5図からの指し手(太字は手番が移動する王手)
→5六同飛↑6四玉 →2六飛成 ←同金
↑1六銀 ←2五玉 ↑1四飛成 ←1六玉
↑1五龍 ←同玉
↑同龍(撃破)→4七銀 ↓5七飛成
↑2七銀 →5六銀 ↑3六玉 →4六銀
↑2六玉 →5七銀 ↓7三歩
↑5六金 →6六金 ↓7四歩 →7六玉 ↓6四歩
↑6六金 →同銀  ↓6五歩
↑6七歩 →6五飛 ↓6三歩
↑6六歩 →同飛  ↑1七玉(第6図)

 第5図から進んで101手目↑6四玉の場面。ここでりゅう玉には既に詰みがある形。しかし中田初段は詰みに討ってとらず→2六飛成!。天GAMI玉に王手をかけながら飛車を勢いよく切ったのである。詰み逃しでたすかったりゅう三段は一気に形勢を翻し、打って変わって天GAMI玉を即詰みに打ち取ってしまった。
 天GAMI初段にとってみれば、いや、卓を囲む全員にとって青天の霹靂だっただろうこの→2六飛成。中田初段によれば、直前の三人攻撃絡みでのりゅう玉への攻めもあり、このタイミングの撃破のうまみが少ないと判断。一手見逃す形をとった。それでも、中田初段にとっても天GAMI初段の即詰みは予想外だったに違いない。筆者としては、もしあの局面で三人攻撃が発生していなければ・・・とifをつい語りたくなってしまう。りゅう玉はより安全に戦っていたのだろうか、それともジリ貧に追い詰められて中田初段に詰まされる未来もあったかもしれない。はたまた、天GAMI初段の指し手次第では他の棋士が先に撃破されることだってあり得たはずだ。局面はもちろん、プレイヤーの心理面に訴えかけるのが指し手、局面、ひいては将棋というものである。四人将棋のダイナミックな流れが勝敗を大きく変えてしまうという事実に、ただ驚くばかりである。
 その後もりゅう玉は攻撃にさらされるが、右辺に配置した銀と裏王にうまく隠れて第6図の↑1七玉まで逃げ延びる。銀2枚に遮蔽物の裏王、近くに攻めの主軸でもある龍を構え、りゅう三段は窮地からの生還に成功した。

 

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三つ巴の攻防

 
第6図からの指し手(太字は手番が移動する王手)
→8七玉 ↓2三歩
↑3五銀 →8二歩 ↓8一銀
↑5三銀 ↓同玉  ↑5六飛 ↓6二玉
↑6六飛 →8三金 ↓5一玉
↑8九歩 →9八歩 ↓5二銀
↑2六龍 →9七歩 ↓3三歩
↑7九金 →5八飛 ↓3四歩
↑同銀  →9五金 ↓3三歩
↑4五銀 →9一金 ↓8二銀
↑9九歩 →8二金 ↓7五歩
↑9八歩 →9六玉 ↓7六歩
↑9七歩 →同銀  ↓7七歩成(第7図)

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 りゅう玉の安定を見てか、中田初段は揚羽蝶初段へ攻勢を仕掛ける。りゅう三段はその隙に左辺下段に駒をどんどん打ち付け中田玉を圧迫していく。注目したいのが揚羽蝶初段の指し回しで、受けを中心に組み立てながら本譜最後の↓7五歩~↓7七歩成でと金づくりに成功した。しかもこの歩成は開き王手にもなっている。自分の駒を当てずに王手という、四人将棋特有の手が現れた。最初はぼんやりとした歩だが、中田初段が受けに回った間合いを活かす面白い手順だ。こういった自制を見計らった立ち回りができることも、四人将棋の醍醐味の1つだろう。その後も三つ巴の攻防は続くが、やがてそれも終わりを迎えていく。

 

第7図以下の指し手(太字は手番が移動する王手)
↓6八と
↑8八金 →同銀  ↓5八と
↑8八歩 →7五銀 ↓9九飛
      →8五玉 ↓6九飛
↑同飛  →7二金 ↓6九と
↑5四歩 →6一金 ↓同銀
↑5三歩成→7一金 ↓6二金
↑6二と      ↓同銀
↑5三歩 →6二金 ↓5五飛
      →9六玉 ↓5三飛
↑5四金 →6一金 ↓4二玉
↑2二銀 →6二金上↓5四飛
↑同銀  →5三金(第8図)
 
 第7図から進んで、揚羽蝶初段に対する攻撃が激しくなる。中田初段が金駒で重厚に食らいつき、りゅう三段が2度の垂れ歩で厳しく迫る。↓5五飛は覚えておきたい手筋で、上家への王手を介した十字飛車はそのまま駒を取ることができるのが四人将棋特有の指し回し。似た手順は本譜でも確認できるので確認されたい。揚羽蝶初段は必死に粘るが第8図の→5三金で詰み。撃破点は中田初段の手に渡った。
 
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終局

第8図からの指し手
↑8三銀成 →5一金 ↑7一飛 →4一金
↑7六飛成 →同歩  ↑同龍  →8六金
↑8七金(撃破)
迄、212手でりゅう三段の勝利。
1位りゅう三段(7pt)
2位中田正康初段(2pt)
3位揚羽蝶初段(0pt)←中田正康初段
4位天GAMI初段(-3pt)←りゅう三段
 
 一騎打ちからりゅう三段がシンプルな寄せを見せた。↑7一飛が厳しい飛車打ち。金をタダでとられまいと→4一金としたが、↑7六飛成から一間龍で寄せ切った。
 三人攻撃から窮地に立ったりゅう三段が、最後には万全の玉形から寄せ切る逆転勝ちを収めた。りゅう三段は一気に7ptを獲得し、早くも昇級に向けて一歩リードと言えそうだ。だが順位戦はまだまだ始まったばかり。1局1局のドラマが昇級戦線を塗り替えていくに違いない。棋士たちの熱い戦いにこれからも注目だ。