四将新報

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【自戦記】第7期四将マスターズ決勝#2─誤算の先の勝利─

 実力者に囲まれて迎えた決勝戦。まさかのことではあったが、私は第1局でトップを取ることができた。あくまで指運、幸運の類であると自分を落ちつけながらも、しかし、確かな勝利の手ごたえを噛みしめていた。
 第2局・第3局が延期となり、2日目(4月26日)に4局連続して実施されることが決まっていた。長丁場のなかでどれほどコンディションを維持できるのかというのは恐怖だったが、そもそもそんな仰々しいことが言える身分ではないだろう。インターバルは短く、すぐに対局当日を迎えた。

(本稿は管理人のnoteに同時投稿しております。内容は同一です。)

 

 

 

第2局を控えて

 対局開始はトラブルもあり、23時と遅い時間だった。21時に合わせて用意したコーヒーはいつの間にか飲み干され、冷めたコップだけが机の上にあった。予定より2時間後ろ倒しになったことで、全対局の消化は厳しいと判断が下された。結果としてその日は最大で第3局までと予定を変更することになったのである。泰然自若に待つことができればいいのだが、なにぶんコーヒーの水位ばかりが減っていく。

 コーヒーといえば以前の王位戦で、おやつに運ばれてきたアイスコーヒーがこぼれてしまった事件を思い出す。あのときの豊島棋聖(当時)の冷静さは忘れられない。あのようにどっしりと構えることができればいいのだが、はやる気持ちというのはなかなか抑えられない。こうした趣味の場ですら気がはやるのだから、普段からもっと落ち着かねばと今になって反省する次第だ。

 

戦型の話

 対局が始まり、いきなり岸亜雷帝に飛車をぶつけられる。改めて第2局の席順だが、上家に岸亜雷帝・対面に中司四将マスターズ・下家に中田正康初段だった。上家の岸亜雷帝が速攻を仕掛けるということは、下家の中田初段も挟撃に持ち込んでくるに違いない。そう怯えながら序盤戦を指し進めていくが、しばらくして違和感を覚える。

 

第5図

 上図は右銀で攻めに行った局面である。この通り、中田初段は下家への攻めを敢行している。ここまでの指し手で飛車を一度9八に振ってくることはあったが、それは多少の揺さぶり程度のものであった。本格的な攻撃がこないと思っていたが、いつでも挟撃形にすればいいというものでもないのだろう。この手の流れで岸亜雷帝との殴り合いに持ち込んでも大丈夫と判断し、私は→8二銀から攻撃に出ることとなる。

 中司四将マスターズが岸亜雷帝に攻撃を仕掛けてくれたこともあり、番い戦ではなく挟撃形の戦型に落ち着いた。四人将棋では1vs1が2か所で発生する「番い戦」と、挟み撃ちの攻防が発生する「挟撃戦」が二大戦型と言えるだろう。ちょっと特殊な形で言えば、全員が下家(右側)を攻撃し、上家(左側)からの攻撃を受けつつ右に右にと攻めえていく戦型も頻出だ。こちらの戦型名は存じ上げていないが、蛇がとぐろを巻くような形なので「蜷局戦(とぐろせん・けんきょくせん)」と私は勝手に呼ぶことにしている。

 話を対局に戻して、挟撃戦模様となった本局。私が繰り出した左金が挟撃によく効く形となり、攻勢を開始してしばらく経った時には岸亜玉はかなり追い詰められていた。金銀で殺到する中司四将マスターズの攻撃は頼もしいものである。本当は撃破点を1点でも多く取りたいが、無理に動いても一気に詰ます手がある状態でもなかった。決めようとするとやきそば─岸亜間は膠着状態という評価になるが、なにせトップを目指すのならば落ち着いて指していけば十分である。中田初段に対しても少しずつ攻めを見せていくうちに、岸亜雷帝が暴れはじめた。

 

仕留め損ねた先に・・・

 

第6図

 この銀打ちはマジックだが、無理気味な王手に見えて難しい手である。手番は変わらず中司四将マスターズだが、これを←同飛とはさすがにできないので←1四玉と逃げる一手。しかしこのときに残された銀を↑2六飛と取らせるのが岸亜雷帝の狙いだったのではないだろうか。飛車が直撃する形になれば←2六飛からの清算は必然で、その分詰みまでの時間稼ぎができる。中田初段に銀を渡すのも自玉が詰んで以降の戦力差という意味で影響が大きい。中田初段から見ても飛車で取る一手である。仮にこの銀を金で取っては、攻めが重たくなってしまうからだ。↑2六飛からの飛車交換の間に岸亜雷帝は↓9五飛と飛車を渡し、将来の「中司狩り」の成功を願うかのように散っていった。

 岸亜雷帝の視点で言えば、私が中司四将マスターズを攻めるために戦力を投入し、消耗したところを中田初段がトップを取るという展開がベストだっただろう。そうすれば最強の中司四将マスターズに与える点数を最小限にしつつ、全体得点でも差が付きにくくなる。その辺りの胸中は岸亜雷帝のみぞ知るところだろう。

 

第7図

 実際に岸亜雷帝が撃破されて第7図。中田初段の飛車成りに呼応して→1九飛打ったのが待望の攻め筋。次に中田初段から↑1三金~↑1四金や、↑1四金~↑1三金の詰めろであり、中田初段に対しても金取りがかかっている。何かと狙いの多い手だが、この飛車が機能しなかったのが本局最大の反省点だった。中司四将マスターズの←3二金から上部脱出を巡る戦いに。中司玉の生命力が高く、包囲網を食い破って自陣に入り込む勢いを見せていた。そこで中田陣への攻撃を保留し、上部脱出への戦いを中心に手を組み立てる。だがそれでも倒れないのが中司四将マスターズ。縦に配置した金銀と岸亜雷帝が残した駒がなかなか寄せにくく、気が付けば包囲されているのは私の方だった。

 

死地を掻い潜って

 

第8図

 この時点で既にやきそば陣は破れている。打ち込まれた二枚の飛車が暴れようとしており、中田初段もさりげなく銀上がりで寄せを見せてきた。銀一枚の守りが辛うじて即詰みを防いでくれているように見えるのが唯一の救いだった。私はここで→4三銀とマジックの王手をかけて、中田初段に態度を伺う。これが功を奏したか、数手王手を中司玉にかけたうえで↑7七銀とじっと詰めてきた。手番の妙で、私→中司四将マスターズ→中田初段という順番のため私が中司玉に王手をかければ中司四将マスターズの手番はその対応だけで飛ばされる。もう1度の王手から中田初段との連携がうまくいき、最後は中司玉を中田初段が詰まし上げた。政略派の中田初段からすれば、うまく私を追い込みつつ、倒せそうな方を倒す理想的な展開になったのではないだろうか。

 だがここまでくれば引き下がるわけにはいかない。中司四将マスターズが残した資源をかき集め、中田玉への攻勢に出る。打ち込んだ飛車もやっとの思いで攻略に参加。局面の有利を感じ取るがなかなかそこから詰ますことができない。基本的に夜に対局が行われる連盟公式戦。普段早寝をしているわけではないが、長丁場の対局がどうも苦手らしく読む力が働かないのを感じていた。タダの駒を見落とす失態もあったが、長い将棋に気力が削がれるのは相手も同じこと。長い長い勝負の果て、240手目を見て中田初段は投了した。

 

第9図

 終局図に至っては私に対する有効な攻めが無い。中田玉には二枚の金の護衛がいるが、ここに至っては反撃の見込みもないということだろう。

 第2局が終わって2局連続のトップ。1局1局に向き合うことができたからか、予想だにしない結果がついてきた。撃破数こそ少ないが8ptはあまりにも大きい。正直な話を言えば、優勝も不可能ではないと思った。もちろん他の場では中司四将マスターズにも、岸亜雷帝にも、中田初段にも痛い目に遭わされた。ただ、たしかな勝利の感覚だけが根拠のない自信に根拠を与えてくれた。発揮できる実力も経験値も足りないが、自分なりのベストを尽くせば勝てるチャンスはある。それが2回も続いたのだから・・・。

 

 さらに舞い上がる気持ちもあったが、これが空振りに終わるのはこの2日後のことである。どのようにして私が負けていったのか、第7期四将マスターズの顛末を綴っていきたい。(続く)